ゾウリムシの有性生殖
生殖

生物は、「生殖」によって自分と同じ種類の新しい生物をつくって、その数を殖やしております。さてここで、♂や♀という「性」があって子孫を殖やす場合を、有性生殖といい、♂♀がない場合を無性生殖といいます。多くの生物では、性と生殖は、密接な関係にあり、ヒトなどでは、ほぼ同じ事のように考えられがちです。しかし、「性」というものは本来、二つの個体の持っている異なる遺伝子を混ぜ合わせるという本質をもっています。

私達ヒトの身体は、60兆の細胞からなりますが、そのほとんどが、日々の生きる営みを行うための体細胞とよばれるものであり、一方、少しの数では有りますが、子孫へ遺伝情報を伝えるための細胞があり、生殖細胞と呼ばれています。こうした沢山の細胞はしかし、もともとは一つの受精卵と云う生殖細胞であります、一人のヒトを形作るすべての細胞は、つまり生殖細胞から作られたクローン細胞の集まりです。クローン細胞は、それぞれ分裂して殖えてゆきますが、ある一定の寿命をもっています。いいかえると、「加齢」して、やがては「死」という行き止まりがあるのです。

ゾウリムシは単細胞生物ですが、無性的な細胞分裂によって次々と殖え、遺伝的に全く同じ個体の集団クローン集団を作ります。しかしある程度分裂をくり返すと、ヒトの場合と同様に、それ以上分裂できなくなり、突然にすべての細胞が死滅してしまいます。つまり加齢して歳をとるのです。種類にもよりますが、約700回程度が限界といわれています。このクローン集団の突然の死をさけるために、ゾウリムシでも有性生殖を行い、若返りを果たすのです。これは、私達の場合と同じで、歳をとった親からできた新しい子孫が、必ず若返っているということと同じです。つまり性は、若返りの仕組みでも有ります。私達の持つ遺伝子は、紫外線や宇宙線をはじめ、様々な原因で傷つきます。細胞はこの傷を優れた修復機構で治してゆきますが、それでも少しずつ障害が蓄積されてゆきます。有性生殖では、こうした障害が修復されることで若返りを果たしているのだと考えられています。

受精

ゾウリムシの有性生殖は、「受精」ではなく、「接合 conjugation」とよばれます。接合は、異なる遺伝子をもつクローン集団の間で行われます。この接合は、しかし、細胞がある程度の分裂をくり返して性的に成熟しなければ行う事が出来ません。私達が生殖できるようになるのは、大人になってから、つまり性的に成熟してからであるという事と良く似ています。ゾウリムシが接合できるのは、性的成熟期に達してからなのです。この成熟には、約50回以上の細胞分裂が必要であるといわれています。

ゾウリムシの接合は、異なる遺伝子をもつクローン集団の間でおこなわれますが、これは、♂♀というたった2種類の間で起こるのではなく、そこには接合型(メイティングタイプ)と呼ばれる何種類もの性別が存在しています。性別は沢山存在しますが、その目的は異なる遺伝子を混ぜ合わせるためである事に変わりはありません。ゾウリムシの接合では、遺伝子を混ぜ合わせるために、核を交換するという作業を行います。ゾウリムシは、遺伝情報を子孫に伝えるための核、「小核」と、日々の生活を営むための「大核」をもっています。私達の身体が、体細胞と生殖細胞といった二種類の細胞に区別して行っていることを、ゾウリムシは、一つの細胞の中で、二種類の核を持つ事で達成しているのです。

有性生殖を通じて親から子へわたされる遺伝情報は、父方からと母方からの2種類があります。通常私達は、それぞれの遺伝情報を一セットづつ、通常2セット(2n)もっています。受精では、♂と♀がそれぞれ2セットの情報をもっていますので、そのまま子孫に渡してしまうと、子供は4セット(4n)持ってしまう事になりますが、実は受精に先立って、2セットの情報を混ぜて、一セット(1n)だけにしたものを用意するのです。従って子孫は、やはり同じ2セット(2n)の情報を持つ事に成ります。 この2セット(2n)を1セット(1n)に少なくする過程が、数を減らす分裂、減数分裂であります。減数分裂では、単に2セットの情報を1セットに減少させるだけではなく、父方の遺伝情報と母方の遺伝情報を混ぜる行為、似たような形や性質をもつ染色体(相同染色体)の間での交叉を行います。言い換えると、減数分裂は遺伝子組み換えを行うという大切な意味をもっているのです。

では、どうして遺伝子の組み換えが必要なのでしょう。突然変異と云う言葉を耳にした事があると思いますが、突然変異は、通常、生きるためには不利なものが多いのです。無性生殖では、一度こうした不利な遺伝変異が生じてしまうと、そのまま子供に引き継がれてしまいますから、クローン集団の中での突然遺伝子の数が減る事はありません。一方、有性生殖では、こうした組み換えが起こることによって、双方の親が持つ突然変異が混ぜ合わせられ、双方の突然変異を持ってしまう子孫がでてきます。この子孫は、不利なものばかりを持ち合わせてしまったために、生まれなかったり、早く死んでしまう事が多いのです。つまり、そうした弱い個体の死と引き換えに、不利な遺伝情報を減らすこと、言い換えると、子孫に伝えないようにすることになます。

ゾウリムシの♂と♀に相当するメイティングタイプの細胞を混ぜると、両方のメイティングタイプの細胞が、大きなかたまりをつくります。この反応を性的凝集反応または交配反応と呼んでいます。この凝集塊は、約1時間ぐらい経つと、ほどけて2個づつの細胞が細胞の口側(腹側)でくっついた初期の接合対が沢山あらわれます。この初期の接合対は細胞の腹側前端部だけでくっついていて「保持結合」と呼ばれています。この後さらにもう一時間ぐらいすると、細胞口部でも接着がおこり、「囲口域結合」とよばれるようになります。腹側前端部から口部域まで細胞長軸の約2/3の部域で接着するようになり、接合対とよばれるものが完成します。
ゾウリムシの場合、接合の時に交換される核は小核であり、この小核は通常2nですが、減数分裂で遺伝情報が半分である1nの配偶核をつくります。

その配偶核(1n)がさらに分裂し、2個の配偶核となり、そのうち1個をお互いに交換しあいます。したがって、細胞は違う遺伝情報をもつ二つの配偶核を持つことになります。やがて、この二つの配偶核が融合して1つになり、2nに戻るのです。この核融合を行った核は、私達の受精卵の核(受精核)に相当します。

ゾウリムシでは、この受精核が、何回かの分裂をくり返して、新しい大核と新しい小核をつくります。一方、古い大核は、役目を終えてやがて退化して消えてゆきます。

Paramecium caudatum では、卵型の大核1個と小核1個があり、小核は通常大核のポケットに入り込んでいます。交配反応がおこると、小核は大核のポケットを離れて大核から少し離れた所に位置するようになります。減数分裂の第一分裂では、小核の変形が起こります。小核は長く伸びて、三日月のような形をつくり、その後また縮んで、球または楕円体となり、高等動植物の中期の核のような形をとります。

この減数分裂の第一分裂を完了した小核は、引き続いて減数分裂の第2分裂を行います。その結果、4個の前核が生じることとなります。

受精核の形成

前核は、4個のうち1個だけが第3分裂を行うことが出来ます。残りの核は、退化し、消失してしまいます。この分裂する核が、どのようにして選ばれるのかについては、不明な点が多くいまも研究されておりますが、現象的には、口部域に位置するものだけが分裂できるようです。
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